「風の谷のナウシカ」の舞台である「風の谷」のモデルは一体何処なのか? 「ナウシカ」に心惹かれた人間としては、興味をそそられるところである。宮 崎さん自身が、ある特定の地域をモデルとして描いたということは考えにくい (いやまずないだろう)が、気候風土や装束の類からして、おそらく西部アジア から中央アジアあたりの雰囲気が近いのではないだろうかと思われる。
しかし、世の中には「ナウシカ」のことを知ってか知らずか、「風の谷」と 名の付いた地名が存在する。南半球はオーストラリア大陸の中央、自称``地球 で一番大きな一枚岩''エアーズロック(Ayers Rock / Ululu)の近く、オルガ (Olga / Kata Tjuta)山群に``Valley of the Winds''と呼ばれているところが ある。旅にはこだわりを持ちたい---常々そう思っている僕にとって、この 「風の谷」は非常に魅力的な場所に見えたのであった。そして...ついに1996 年の9月の初め、PC-VANの宮崎駿ネットワーカーFCのたろう氏と2人でこの ``Valley of the Winds''「風の谷」を訪れることになった。
エアーズロック・リゾートへ
今回我々は、空路アデレード(Adelaide)からアリス・スプリングス経由でエ アーズロック・リゾートに入った。コネラン空港に到着すると、ロビーにはエ アーズロック関連のツアー会社のデスクがずらりと並んでいる。予約しておい たAAT Kings社のデスクで チェックイン。AAT Kings社はオーストラリアでも最大手のツアー会社で、日 本からでも予約が可能である。今回選んだツアーはスーパーパスと呼ばれるパッ ケージもので、一通りのツアーが含まれている。
エアーズロック・リゾートでの基本的な生活は、朝・夕にツアーが行われ、昼 はリゾート内でのんびり休むというパターン。何せ陽射しがきつい。昼間に動 くのは得策ではないのだ。夏季の日中はかなりの高温になり、影となるものが 何もないので、日射病から命の危険性も出てくることもあるという。ツアー中 は水筒の携帯が欠かせない。
ちなみに、上記のツアーの中で「風の谷」に行くのは「オルガ・サンセット」 のツアーである。ツアー以外で行きたい場合には、レンタカーという手段がある (空港にレンタカー会社のデスクがいくつかある)。もっと安くすませたいとか、 昼間だろうが、なんだろうが、がんがん動き回りたいというわがままな人はど うぞ。
さて、チェックインをすませた我々は、エアーズロック・リゾートへ向かっ た。エアーズロック・リゾート内は、宿はそれなりの値段がかかる。もし安く すませたいのなら、スピニフェックス・ロッジ(Spinefex Lodge)かアウトバッ ク・パイオニア(Outback Pioneer)のどちらかの選択となる(キャンプサイトも あるけど...)。いずれもツインでA$80程度、ドミトリーでA$20ぐらい。スピニ フェックス・ロッジの方がインフォメーションやスーパーに近いので便利では あるが、酒類(持ち帰り)の販売はアウトバック・パイオニア内の売店でしかやっ ていないので、どちらを取るかは好みの問題かも。結局泊まったのはスピニフェッ クス・ロッジ。しかしたろう氏は夜な夜なアウトバック・パイオニアにビールの 買い出しに行ったような...(だいたい徒歩で7,8分ぐらい離れている)。またリ ゾート内には、インフォメーションはもとよりスーパー、レストラン、バー、 銀行、郵便局などからギフトショップ、ツアーデスク、なぜか会議場まであっ た(ここで「世界ナウシカ会議」をやりたいものだ)。およそ生活に必要なもの はほぼ揃っているので、まず不自由することはないだろう。
ここで気候に簡単に触れておく。今回訪れたのは9月ということで、現地の 季節だと冬から春にあたるわけだが、季節らしいものは特に感じなかった。た だ大陸の真ん中ということもあって、昼夜の寒暖差が激しい。昼間は初夏ほど の気温になるが、夜は晩秋といった感じの冷え込み。ツアーはサンライズやサ ンセットが中心で、早朝出発のもの、また暗くなってから帰ってくるなどのパ ターンが多いので、若干の防寒具は必要となる。しかし日が昇ってしまえば、 きつい陽射しの影響でどんどん気温が上がるので、やはり夏季(日本の冬)に訪 れるのは避けたほうがいい。あと夏はハエが多いそうなので、ハエよけのネッ トが必要かもしれない(今回は全く平気だったが)。
オルガ・サンセットツアー「風の谷」へ
駐車場でバスを降り水筒を受け取る。ツアーで歩く時は帽子や日焼け止めな どの日焼け対策の怠りのないように注意したい(これは季節を問わず年中)。ま ずは案内版の前でツアーの簡単な説明。案内版には確かに``Valley of the Winds''と書いてある。おお!やはり名前だけでも感動を覚えるものだ。ツアー には必ずガイドが付く。ツアーによっては日本語ガイド付きというものもある ので、どうしてもという人は利用するといいだろう(もちろん日本語ガイド付 きはエクストラ・チャージを取られるが)。でも別に「ナウシカ」の話をして くれるわけではないので注意をしたい。このツアーは、谷間沿いの遊歩道を 「風の谷」の途中まで行き、そこで引き返してくる(6km)2時間半の行程のもの である。しかしコースとしては「風の谷」を抜けてぐるりと一周できるもの (8km)もある。午前中に無謀にもエアーズロック麓一周(9km)を果たした我々は、 当然のようにこの一周コースにチャレンジすることにした。と言っても、ガイ ドさんに気づかれては、当然「先に行くな」と呼び止められるのがオチなので ある。そこで、ガイドさんが後方のおじさんおばさん組に気を取られている間 に徐々にリードを広げる。ガイドさんをうまくまくことに成功した我々は、 なだらかなな丘を越えて渓谷の入り口を目指した。
遊歩道と書いてはいるが、基本的には歩きやすいように若干整備されている
だけのものである。赤茶けた砂と石ころの道を延々と歩いていく。高低差はそ
れほどないので、普通の運動靴があれば十分だろう。丘を越えると少し平らな
広場に出る。その先に小さな橋がかかっており(もちろん川は干上がっている
が)、周回遊歩道の起点に到着する。この周回遊歩道を左回りに進むかたちで、
いよいよ渓谷へと入っていく。
渓谷はかなり狭いもので、幅が50mぐらいのもの。両側の崖の高さは300mぐ
らいだろうか。谷間の底は森のようになっている。この辺りでは森と呼べるま
でに木々が密生することはないが、谷間は雨水がたまりやすいのと、日陰になっ
て水が蒸発しにくいこともあって、植物が育つにはいい環境なのだろう。向かっ
て左側の崖のづたいに進んでいく。崖にはところどころ滝の跡と思われるとこ
ろがある。年に数日だけ雨が降るそうで、そのときだけできる滝だ。何もない
岩肌を流れ落ちる水。想像するとなかなか豪快だ。
既に夕方で日が傾いて崖に陽射しが遮られるので、あたりはひんやりとして くる。あるのは風で梢が揺れる音だけ。見かけの雄大さとは裏腹に、静けさが 空気を支配している。普段如何に多くの音に囲まれて生活しているかというこ とを実感する。やがて渓谷はさらに狭まっていく。ちょうどナウシカの風の谷 に入る道もこんな感じかと空想してみる。やがて渓谷は大きく左に曲がり、ゆ るやかな道を登り切ると、突然目の前が開けた。
そのまま駆け下りるようにして、谷を抜けていく。振り返ると両側の崖の高
さが一層際立つ。ちょうど風が一気に吹き下ろしてくる。なるほど「風の谷」
と言われる所以だ。
そのまま谷を抜けると、入り口とちょうど反対側、ぐるりと岩山に周りを取
り囲まれたところに出る。帰りは渓谷を迂回するように左回りに半周すると、
周回遊歩道の起点に戻ってくる。ここまで1時間40分。あとは行きと同じく丘
を越えて15分ほどすると、駐車場に到着。ここにめでたく「風の谷」訪問ツアー
を終えることができたのだった。やったね(^^)。
ツアーはこの後、サンセットに映える赤茶色のオルガを眺め、その後バーベ
キューで夕食。そしてスターゲイジング(いわゆる星見)と続く。このスターゲ
イジングはなかなかの見物。何せ人工的な光が全くないので、日が暮れてしま
えば、お互いの顔を見ることさえ難しいほどの闇夜となる。その晩はお月さま
が結構頑張っていたので、星見にはあいにくのコンディションであったが、久
しぶりに見る満点の星空はまた格別だった。もちろん南十字星の美しさもさる
ことながら、あんなにはっきりと天の川を見たのはどれぐらいぶりだっただろ
うか。ただやはり南半球なので、星座を見つけにくいこと甚だしい(さそり座
が頭の真上にあり、織り姫・彦星の世界は北の空なんて...ねぇ)。もし本格的
に星見をやるのなら、星座早見盤の準備をお忘れなく(現地で購入可能)。
「風の谷」ツアーを終えて
旅は旅する人だけの物語を作る。そう「風の谷」にオーストラリアのアウトバッ ク(outback)の自然を見るか、「ナウシカ」を見るかなんてのは、人それぞれ なのだから。
今回の旅はほんの始まりにすぎない。今度は、ほんとにナウシカが振り向い てもおかしくないような、そんな場所を旅してみたいものである。いや、もし そんな場所を知っていたら、是非とも教えてくださいませ:)
All articles and photos are written and taken by じょばんに (giovanni@mt.cs.keio.ac.jp)