ニューヨークのクイーンズ地区、移民たちの子供たちが多く通う小学校で、3年間ボランティアで「クリエイティヴ・ライティング」を教えた作家と子供たちの紆余曲折の日々(と表現するのが適切と思う)が綴られている。実はこの本を書いたサム・スウォープさんが先日うちにいらした来客そのひとであったのです。邦訳版の出版記念の関係で来日されていたのですね。この本を読んでから会っていればもっといろんなことが聞きけたであろうと思うと実に無念ではありますが、僕のつたない英語ではたいしたことが聞けなかったであろうこともまた事実なので、とりあえず本を読んでしばし思いをめぐらせる。
一番印象的だったのはスジュンという韓国人の女の子の話。彼女は結局サムさんの授業に感化されることはなかった。『教師は自分の情熱を生徒に示すことはできても、望まぬ生徒の胸にまでその情熱を届けることができない。わたしはその苦い真実を思い知った。』しかしその彼女も音楽に対する類まれなる才能を持っていることを、学校のバンド指導をしているフォルティ氏から教えられるのである。『知り尽くしていると思っていたのに、スジュンのことをなんにも知らなかったのではないか。そんなに音楽が好きだったのか。それで初めて合点がいった。いま思えば、わたしの部屋でチラチラ時計を気にしていたのは、バンドの練習に遅れたくなかったからなのだ。』すべてがうまくいくわけではないけれど、すべてがうまくいかないわけではない。この本のよさは、そこにあると思う。