宮崎駿の劇場作品「もののけ姫」のロケハンを屋久島でやったと聞いた。 なるほど、深い太古の森を描こうとするならば、もうあの島に行くよりほかない だろう。それは屋久島が特に秘境の土地だからというわけではない。鬱蒼と生い 茂る巨木の群を目の前にすると、風景としてではなく実感として、森に分け入る ということがどういうことなのかを教えてくれる。屋久島の森には、せめぎあう 生命のにおいみたいなものを感じる。そして、自分の小ささもまた思う。
この本はそんな屋久島の紹介をするつもりで作り始めた。しかし世界遺産に登 録された今、屋久島に関する情報は世の中に溢れている。写真集にエッセイや 紹介記事、TVの特集番組、最近ではパックツアーまで組まれるようになってき た。よって何も今更屋久島の紹介する必要はないのではないか。そう思わざる を得ない。しかし屋久島は、体験してこそ始めて何がどうなのかということが わかる。まずは体験する。ならばその体験こそが屋久島なのだということは 言えないだろうか。そこでこの本では屋久島で何を体験したのかを集めてみる ことにした。ここに載せられた記事はあくまで個人的体験に基づくの話である。 事実は、あなたがその場に実際に行って確かめて欲しい。
(※)なお記事中のすべては1997年4月時点の情報を元にしています。記述に間違いが あったとしても責任は持ちません。at your own riskで利用してください。
Q.屋久島ってどうやっていくんですか?
A.行こうと思いさえすればいつだって行けます。
屋久島は九州の南、四方を海原に囲まれた島である。あなたがどこから出発す るにせよ、交通手段は自然と限られる。飛行機、トッピー(ジェットフォイル)、 船。この3つしかない。
JAS(日本エアシステム)系列のJAC(日本エアコミュータ)が乗り入れており、鹿 児島-屋久島の1日4便(※)。10,420円。料金はちとお高いが圧倒的に速い。所 要時間たったの30分。しかも実は海路より天候に強い。(逆に一番弱いのがトッ ピー。しかしあくまで比較の問題である。) 難点は鹿児島空港が鹿児島市中心部から1時間ほど山奥にあること。定員が少 ないこと(YS-11なので100人乗れない)。また屋久島空港の売店にはみやげもの 程度はあるが、その他食糧や燃料などの店は空港付近にはないので、物資の現 地調達を考える場合は注意が必要である。
※夏期休暇中は1便増便。また今年から福岡-屋久島の臨時便が就航している。 (ただしSAAB機を使っているのでYS-11よりさらに定員が少ない)
トッピーとは周航している水中翼船の愛称(とびうおだからトッピーなの)で、 宮崎・鹿児島と屋久島の宮之浦港・安房港を結んでいる。料金は鹿児島から 7,000円、宮崎からは10,000円。所要時間は1時間半〜3時間と便によってまち まちである(指宿や種子島経由のものがあるため)。割高ではあるが、輸送力は 飛行機より上なので、チケットは比較的取りやすい。しかも宮崎から便があった り、入山するのに位置的に近い安房港に行く便があるなど、バリエーションの 豊富さも見逃せない。難点は海が荒れたらおしまいなこと。欠航する可能性は 一番高い。そんなときは焼酎でも呑んで素直にあきらめましょう(笑)。
鹿児島-宮之浦港を1日1便。2等で3,900円。なにしろ予約なしで乗れる交通手 段はこれだけなので、多客時は最後の砦となる。とはいうものの、値段にそぐ わぬ豪華客船なので決して捨てたものではない。ラウンジもある。カラオケも ある。風呂も付いてる。うどんも食える。旅を楽しむという意味では一番いい 交通手段ではないだろうか。4時間ほどかかるのは御愛敬。そんな時間などあっ と言う間に過ぎ去るだろう。地図を広げて入山計画を見直すもよし、タクシー の相乗り仲間を見つけるもよし、帰りは友人に絵はがきを書くもよし。やるこ とはいくらでもあるのだ。
さて、交通手段を決めるにあたってあなたは何を決めるべきなのだろうか? とりあえず以下の用件はまず決めておきたい。
確かに船と飛行機では3倍近い差があるのは事実である。しかし正直言って、 ちょっとやそっとケチったところでどうにもならない。屋久島に行くこと自体 がそもそも贅沢(笑)。予算で交通手段の選択肢を狭めてしまうことは、必ずし もよい旅にはならない。予算を切り詰めるのを旅の主義としているひとまだし も、予算の問題はなるべく後回しにして決めるべし。賢く使って楽しい旅に しよう。
これは鹿児島空港的問題。鹿児島空港と市内はバスで約1時間。つまり飛行機 で来て他の交通機関に乗り換えたり、他の交通機関から飛行機に乗り換えたり するのは結構面倒なのでおすすめしない。
縦走などのために到着日に一気に入山する場合には、最低でも昼過ぎには現地 に到着するように心がけたい(当然鹿児島発午前便ということ)。しかし、例 えば縄文杉だけ見られればいいというのであれば、特に気にする必要はない。
台風などの影響で交通機関が乱れた場合、臨機応変に対応できるかどうか、と いうことである。船で行く場合は予約なしなので問題ないが、その他予約の必 要な交通手段については、予め欠航時にどういう対応をしてくれるのかを問い 合わせておいた方がいいだろう。 屋久島を体験するには日程的な余裕は欠か せない。台風が来ても笑って飛ばせるぐらいの気持ちを持とう(笑)。
でもね結局。
重要なのはそんなことではない。片道のチケットしか取れなかろうが、台風で
欠航になろうが、何の予定も立てなかろうが、お金がなかろうが、時間がなか
ろうが、とにかく行くんだという思いが大切だ。「行こうと思えばいつだって
いける」のだから。
ここでは目的別のいくつかの往路復路モデルコースを紹介しておく。
東京 - (飛行機) - 鹿児島 - (飛行機) - 屋久島
何も考えずに飛行機のみで行く。お金があるひとは絶対これがおすすめ。何せ朝 一の便で行くとすると、昼はもう屋久島の山の中だ。日程を有効活用で きるので、現地での余裕ができて嬉しい。問題はチケット確保。シーズン中は 東京 - 鹿児島便(鹿児島から沖縄方面離島便乗り継ぎ客が多い)、鹿児島 - 屋 久島便(所詮YS-11だしねぇ)とも相当に混雑するので、気合いを入れましょう。 でも気合いを入れてどうにかなる問題ではないけどねぇ...。
東京 - (飛行機) -宮崎 - (トッピー) - 安房
宮崎経由で屋久島に入るパターン。費用はおきらくごくらくコースとたいして 違わないが、安房に着くことから入山するのに有利である。また安房は宿も多 いので、とりあえず入山に必要ない荷物を宿に預けてから登るなんてこともで きるだろう。状況によって選択したい。
東京 - (飛行機) - 福岡 - (夜行バス) - 鹿児島 - (船) - 屋久島
鹿児島行きの夜行バスは大抵いづろバスセンターが終点である。いづろバスセ ンターから鹿児島の北埠頭までは徒歩10分ほどなので、バスと船の乗り継ぎの 相性はいい。大抵のバスは朝6時から7時に到着するので、8時発の船に余裕を 持って乗り継げる。例えばこの例だと、羽田20時の福岡行き最終便で鹿児島行 き夜行バスに乗り継げるので、安いだけでなく時間を有効に使える。しかもチ ケットも比較的取りやすいので、考慮されたい。
さていつごろ屋久島に行くのがいいのだろうか。一般的にはGW過ぎあたりから 6月頃と言われている。花之江河などの湿原に花が咲くのがGW過ぎで、屋久島 の代表的な花であるシャクナゲが咲くのが6月だからである。しかしその時期 に行ったわけではないので、こればかりはなんとも言えない。しかし、雪で完 全に閉ざされてしまう冬期以外は、基本的にはいつ登ってもそれなりの表情を 見せてくれると思われる。
どちらかと言えば、気になるのは天候のほうだろう。やはり雨の中を歩くより は太陽の下、気持ちのいい風に吹かれながらあるいてみたい。 海面にいきなり2,000mほどの山が突き出した屋久島は、島自体が雲発生装置み たいなもので、当然の年間降雨量はすざまじいものがある(最もその雨のおか げで森が支えられているのだが)。また地理的に台風の通り道でもある。よっ て四六時中雨が降っているような印象を受けるが、実際にはそんなことはない。 ちゃんと天気のいい日だってある。ただそれがいつかは分からない。1週間晴 天が続くこともあれば1週間ずっと雨だってこともある。
ただそんな中でも間違いなく晴れると言える日がある。それは台風が通過した 直後だ。台風が多い時期は避けたい気がするが、それを逆手にとってみればど うだろう。台風が行ってしまうまでじっと我慢して、通過したら一気に山を目 指す。そこにはきっと素晴らしい展望が広がっているに違いない。ただし一つ だけ注意。台風が通りすぎた後は、道が倒木などでむちゃくちゃになっている 可能性がある。それもまた体験。
それに晴れた日ばかりがいいわけではない。別に雨が降ったからと行って登れ ないわけではない。雨の中に霧が漂う森もそれはそれで気持ちのいいものだ。 天候ばかりこだわることなく楽しんでみるのもいいものだ。
さて今度は何を持って行くのかというお話である。旅の持ちものはひとそれぞ れで個性が出るところであるが、いつもと違うことをするのだからあまり多く のものをごちゃごちゃ持って行かないことをお薦めする。別に人跡未踏の秘境 に行くわけでもないので、必要があれば現地で購入すればよい(A-COOPという 農協系のスーパーが各所にある)。旅先で買物に立ち寄るのもそれはそれで面 白いものだ(特にお魚売場はほんと地方によって特色がある)。手ぶらで行こう、 それぐらいの気持ちで準備しよう。
とは言え、基本的には山登りなのでそれなりの装備を持っていくのが重要であ る。しかし縦走ではなく縄文杉もしくは宮之浦岳のみ日帰りの日程であるなら ば、できるだけ身軽に済ますも悪くない。日帰りの場合、どうしても一日の行 動距離が長くなるので、その分荷物は軽めにしておこう。縦走するなんてひと は言わなくてもわかってるはず(※)なので、ここでは日帰りのひとむけの情報 を中心に取り上げる。
※縦走するひと向け情報。屋久島現地でコンロ用の燃料(API & PRIMS の共用とCamping GAS)は入手可能。宮之浦港近くと安房で確認済。飛行機乗る ひとはコンロ燃料は持ち込み不可なので現地調達を利用しませう。
軍手とタオルは必須。長袖でも半袖でもその辺は御自由に。一番注意したいの が靴。なにせ晴れていても足場は限りなく悪い(泥水たまりぐちゃぐちゃ)とこ ろがあるので、防水仕様の登山靴がお薦め。別に濡れても気持ち悪くても平気 ならスニーカーでもいいけど...その靴履いて帰れませんよ、きっと(笑)。あ と合羽も忘れずに(傘はさせません...っていいよね)。
まず水。山頂周辺以外には途中に水場はいくらでもあるので、とりあえず水筒 があれば適宜継ぎ足すことでこと足りる。空いたペットボトルでも可。お茶を もっていくのもいいが、水はどこでもおいしいので屋久島の水を飲んでみよう。 特にウィルソン株内の水は是非とも味わっておきたい。
また「この水でコーヒーが飲みたい」という贅沢な輩(笑)は、携帯コンロを持 参するべし。さすれば、この水でカップラーメンを食べることも可能である (汁はその辺に捨てないで全部飲み干しましょうね)。
ただ水を持って帰るってのはあまりお薦めできないかも。水はその場で味わう からおいしいのであって、持って帰ってきてもそれはただのミネラルウォーター とさしたる違いはないのである(経験者談(笑))。ちなみにお土産にも水は売って いる。
あとは飴玉とお昼に頂く弁当があれば十分。お弁当はやっぱり握り飯が一番。 缶詰(おかずになるものとフルーツ系)なんかを持っていくのもよい。普段はた いしておいしいとも思えない缶詰でも、森の中ではごちそうに生まれ変わるの である。
地図と時計...こんなの基本ですが...持ってないひとが多いので。コースタイ ムを地図に適宜書き込むと後々何かといいことがあるかも(何って言われても 困るけど...ほら本作ったりするときとかね(笑))。ただ地図に載っているから といって全面的に信用してはいけない。倒木などで通行不可になっている道も あるので、必ず観光案内所などで事前に確認すること。
写真を撮るひとはカメラかな...でもズームレンズって屋久島ではほとんど意 味ないですよ(笑)。広角レンズを持っていかれることをお薦めします。 あと縄文杉の前からは NTT DoCoMo Digital 800M の携帯電話はつながります。 一刻も早く感動を伝えたいかたは御持参を(笑)。どっちにしても防水対策はぬ かりのないように。
さて次は山の中で何をするか、である。「何をするもなにも、森の中を歩いて 屋久島の太古の森を体験するってことじゃないの?」と思われるかもしれない。 もちろんそれは正しい。しかしもうちょっと別の角度から屋久島をみることも できる。そう、たとえばこんな屋久島。
淀川小屋はちょうど宮之浦岳に至る入口あたりにあり、宮之浦岳登山のベー スキャンプとなる小屋である。平屋の木造だが比較的きれいで、中は二段構造 の板の間になっており、80人ほどが寝泊まりできるスペースとなっている。小 屋の回りには若干のキャンプスペースもあり、煮炊きをするためのコンクリー トの台もある。ここ小屋のいいところは、なんといってもすぐ近くを流れる淀 川。すぐ飲めるほどに透き通った水が緩やかに流れ、両岸から延びる木の枝の が水面に映って、一面が緑の幻想的な風景を作っている。また水場になってい る支流は、巨木が生い茂る森の中から流れ出してきており、ちょうど腐海の底 を流れる河がこんなふうなのだろうかと想像してみたりする。
宮之浦岳に登るときは、前日にこの淀河小屋に泊まり荷物を置いて登るのが 一番いいだろう。時間的余裕もできるしなにしろ身軽に行動できる。でも、も し時間があるのなら、もっとこの淀河小屋に泊まってみればどうだろう。昼間、 誰もいなくなった小屋の中でお気に入りの本を読書するもよし、カメラを片手 に辺りの風景を収めるのもよい。いっそ何もしなくてもいい。そんな屋久島で の森林生活もまたいい。
淀川小屋から宮之浦岳に至る途中、1時間半ほど入ったところに、湿原が作る 自然の庭園・花之江河がある。花が咲く季節はもちろん、花はなくともその静 かなたたずまいはふっと心が安らぐ瞬間である。宮之浦岳登山の行き帰りにひ と休みするのには絶好の場所だが、天気のいい日にはいっそそこでゆっくりと 過ごしてみるというのはどうだろうか。お気に入りのお茶とお菓子をもってく れば、即席のお茶会のできあがり。お酒が好きなひとはお気に入りのおつまみ と一緒にどうぞ。誰もいない湿原の前で、鳥と風と太陽に囲まれてぼーっと過 ごす。それもまた屋久島かもしれない。
花之江河からさらに宮之浦岳方面に登ること1時間。投石岩屋の手前、投石 岳と黒味岳の間に投石湿原の奥に大きな平べったい石がごろごろある場所がちょっ とした高みがある。僕等はそこを投石平と呼んでいる。天気のいい昼さがり、 程良く暖まった石は天然のベッドだ。おびただしい緑を眺めるのに飽きたら、 ちょっとあお向けになって空を眺めてみよう。目を閉じて耳を澄ましてみよう。 また違った屋久島が見えてくるはず。そのままうとうと眠りにつけば心も身体 も楽になる。ただ...居眠り過ぎには御用心。
天気さえよければ、黒味岳の山頂そしてそこに居るひとたちを見つけることが できる。
「おーい。海は見えるかーっ。」黒味岳に向かって問いかける。 「見えるよーっ。」黒味岳が答えた。
屋久島の大きさと人間の小ささを知る瞬間。
荒川林道の終点から大株歩道に至る通称トロ道。ここはかつて伐採した杉を運 ぶためのトロッコ列車が走っていた。現在、その廃線の上に歩道が作られてい る。トロ道の途中に川を跨ぐおおきな鉄橋がある。小杉谷の鉄橋だ。これを渡 り終え たところにかつて集落があったらしい。こんな山の中にもひとが住ん でいたのだ。今では小学校のグランドの跡地と朽ち果てた門柱がわずかに当時 の面影を残すのみである。廃線跡はそんな時代を伝えるもっとも大きな遺産。 渓谷沿いに奥へ奥へ。森の中を突き抜け、崖っぷちを曲がりくねり、そしてや がて森の中に消えていく。雑草に埋もれ朽ち果てながらも、未だに訪れるひと の道であり続ける。「だらだらと長くてつまらない」「枕木の間隔と歩幅が合 わなくて歩きにくい」そんなふうにただ通り過ぎてしまうだけでなく、まだそ の線路の上を機関車が走っていた頃に思いを馳せてみるというのはどうだろう か。錆びた転轍機に壊れた機関車。廃線ファン(笑)のひともそうでないひとも、 きっと気に入るに違いない。
屋久島の魅力は、縄文杉をはじめとする多くの屋久杉の巨木や宮之浦岳を中心 とする屋久島の山々である。海岸からわずか車で1時間ほど入っただけで、そ こには鬱蒼とした森が広がっている。ほんと摩可不思議な島。しかし魅力はそ れだけではない。島内各所に涌き出す温泉だ。それは登山し終えた身体を優し く癒してくれる。まさに人類が生み出した英知の極み(笑)。温泉に入らずして 屋久島を語ることなかれ。ここでは2箇所の個性的な温泉を紹介しよう。
島の南端に位置する尾之間地区。ここには町営の尾之間温泉がある。最近改築 して、ログハウス風のきれいな建物になった(しかしきれいになったのは建物 だけで湯舟を含めて風呂場は昔のまんまだったりするのだが)。入浴は1回200 円と安い。
ここの温泉の特徴はなんといっても「足もとからこみ上げる熱さ」だろう。 8m x 3m ぐらいの湯舟の底には漬物石ぐらいの大きさの石がゴロゴロと敷き詰 められていて、その石の間から温泉が涌き出してくる。よって、湯舟の中で熱 い位置とか温い位置とかいうものがなく、まんべんなく熱い(笑)。ちょうど釜 炊きのお湯に入ったような感覚。しかしこの足もとから忍び寄る熱さが登山で 疲労した足に良く効くのだ。この温泉を体験したら、その辺の温泉は「こんな の温泉じゃない。」と思えてくる。尾之間温泉にくれば、あなたが探し求めて いた究極の温泉(笑)に出 会えること間違いなし。
お薦めの時間は朝。ちょうど夜中にかけてお湯が入れ替わるのできれいになっ ている。午前7時からやっているので、朝食前にちょいと朝風呂を決め込むの もまた風情がある。
尾之間から周回道路をさらに西に向かって進むと平内海中温泉がある。海岸沿 いの磯の窪みを利用してつくられた温泉で、露天も露天。ただ湯舟が3,4つあ るだけの全く素朴な温泉だ。料金は1回100円(入口の料金入れに放り込む)。温 泉に向かって伸びる堤防(?)を歩いていくと、「これより先、土足禁止」の線 がある。ここでポイと履物を脱ぐ。あとは堤防の端っこで着ているものを脱い で、着ていたものが風で飛ばされないようにそのへんの石で押えておく。で、 タオル片手に裸で舟までてくてく歩く。これだけ。間違っても水着を着てはい けない。まさに温泉の原始の姿を見る気分。しかし残念なことに、時おり観光 客と思しき若いカップルが来ては、あまりの何もなさに帰っていくのであるが (笑)。
ここの温泉の特徴は、なんといっても入浴中に湯舟に波が押し寄せてくること だ(笑)。これは潮の干満と関係していて、ちょうど満潮を向かえる2時間ぐら い前から入ると、じわじわと海が迫ってくるのがよく分かる。そしてやがて一 番海寄りの湯舟から海水に侵食されていく。もちろん海水は冷たいので海に沈 むとその湯舟は使えなくなってしまうが、多少被る程度だと海水が入ってくる ことでお湯の温度が調節されて気持ちがいいのだ。そして圧倒的な解放感。潮 風に吹かれながら海を見て温泉に入っていると、世の中のことがどうでもよく 思えてしまう。1時間でも2時間でも、のんびり入るのがいいだろう。 お薦めの時間は満潮の前後2時間。潮が満ちてくる時間帯だと、岩の間からお 湯が突き上げてくるので、かなりの熱さになる。熱いのが好きなひとはこの時 間に。また逆に潮が引いていく時間帯だと、お湯の突き上げはないので、ぬる いのが好きなひとはこちらの時間を選ぶべし。 またできるなら桶を持参したい。湯舟のお湯は塩分を含んでいるので、そのま まだとあとで身体が多少べたべたする。上がり湯が湯舟の横に用意してあるの で、あがるときは桶で上がり湯をかけて身体から塩分を落そう。
島内での足の話である。島内の公共の交通機関といえば周回道路(西部林道を 除く)を走るバスしかない(※)。このバスは1時間に1本程度しか走っていない ので、島内めぐりの足としてはちょっと不便。よって普通はタクシーを利用す るかレンタカーを借りるかのどちらかとなる。レンタカーは、地元のまつばん だレンタカーが便利。島内の主要地区(宮之浦・空港・安房)に営業所を持って いるので、いざというときに役に立つ。しかしもしひとり旅をする場合、やは りレンタカーもタクシーも割高になるのは否めない。そんな哀れなひとのため (かどうかわからないけど)に、50ccの原付バイクを貸してくれる店がある。宮 之浦のレンタカーなかしまと安房のYouShop南国。YouShop南国では1日借りて 3,500円であった。タクシーを利用したりレンタカーを借りることを考えると この値段はありがたい。それに小回りも効くので、ちょっと出かけるというと きにも非常に便利だ。ひとり旅で足に困っているかたには是非ともお薦めする。 ほんとは250ccぐらいのオフ車を貸してくれると嬉しかったりするんだけどね(笑)。 菜の花の原っぱ、太陽に輝く海、白い雲。こんな風景のなかを原付バイクでの んびり走れば、ほら気分はもう「屋久島買い出し紀行」。間違っても岬の先に 可愛い女の子がマスターをやってたりする喫茶店はありませんけど...(笑)。 あと島内の給油所はそんなに多くないので、燃料の補給もお早めに(しかし決して おっさんがデッキチェアで寝っころがってたりはしない...念のため)。
(※)上記以外に季節運行の路線バスで宮之浦港-安房-屋久杉ランド線というのが ある。縦走するひとは要チェック。
屋久島の西側には周回道路として走っている西部林道。大川の滝から永田地区 まで基本的には何もないところなのだが、その途中の永田岬にぽつんと屋久島 灯台がある。ここからは屋久島の西側に広がる海を一望することができる。そ の海の中にぼんやりと見える島影。これが口永良部(くちえらぶ)島だ。周囲 50km、人口わずかに百数十名。屋久島とは一日一往復宮之浦港から小さい船 (第二太陽丸)が出ていて、約2時間で島間を結ぶ。小さな離島だが、島の中央 に新岳という活火山があり、聞く話によるとどうやら島内各所に良質の温泉が 涌き出しているらしい。尾之間温泉に魅せられた者としては、屋久島まで来て おいて口永良部島へ寄らない手はない。だが、まだ現在のところ、その夢はか なわぬままである。あの...誰か行ってレポートしてくれませんか?(笑)
花粉症のひとはどうするんですか?
「汚れているのは空気なんです!屋久島の森の中のきれいな空気なら、花粉症 も症状を出さないとわかったの。なぜ...誰が世界をこんなふうにしてしまったのでしょう...」
うそです...。