読書日記(妖精王の月)
by 鈴木 宏枝
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妖精王の月(ようせいおうのつき)
原題The Hunter's Moon読んだ日2001.7.6
著者O.R.Melling(O.R.メリング)訳者井辻朱美画家こみねゆら
出版社講談社出版年月日1995.2.20原作出版年1989
感想 以前読んだときは、一種のフェアリーランドとしてのアイルランドに迷い込んできたグウェンの旅、ロールプレイングを思わせるような、賢人や味方との出会い、その道筋をおもしろく読んだ(赤毛を信じなさいというヒントや、謎めいた場所へきちんきちんと導かれていくこと)。グウェンは失敗ばかりして(がっついているところが個人的に好き。さらに、のちに言われる「あの試練に耐えられるのは、食べることが嫌いな人だけ」というセリフもグー)いるが、そのたびに彼女のトラブル解決に手を貸してくれた人が、最終的には円卓に集うことになる。明確なゴールが最初から見えているのではなく、いくつもの曲がり角を曲がって狩人に対峙するというプロットが良かった。
 今回は、グウェンを迎え入れるほうの土地と、二対立ではなく妖精を受け入れているアイルランド人(彼らは、だから、妖精を信じながら、大陸との経済交流も視野に入れた実業人として活躍もしている)に目がいった。塚山で寝ることは、いまだに、狂気の沙汰なのだ。どうなってもいいと言っているようなものなのだ。
 すごくフェアリーテイルを感じたのは、やはり、愛…というか、一目ぼれして惹かれあうことが前提になっているところ。見た目と性格が一致していて、ダンスで駆け引きをして、永遠の恋愛が信じられているところ。また、妖精は動物と一緒で、こちらのロマンティシズムを投影するのは自由だけど、気まぐれ以外の感情は持っていないし、優しくもなれば残酷にもなる。そして、それが「不死性」に由来するとき、ピーター・パンの怖さと、生き直す妖精王の対比が浮かぶ。
 最初にイエィツの詩を持ってくるのは、そのまんまという気もしたが、まったくふさわしい。
 フェアリーの重なるアイルランド人、フェアリーランドの重なるアイルランドを思いつつ、共感も多いのは『ふるさとは、夏』を思い出したから。


鈴木 宏枝
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