読書日記(ゼバスチアンからの電話)
by 鈴木 宏枝
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ゼバスチアンからの電話(ぜばすちあんからのでんわ)
原題Ein Anruf von Sebastian読んだ日2000.9.22
著者Irina Korschnow(イリーナ・コルシュノフ)訳者石川素子・吉原高志画家(N/A)
出版社福武書店出版年月日1990.3.30原作出版年1981
感想 テレビでも映画でも本でも、見たり読んだりしているときに、ドッキーンと心臓が痛くなることがある。そういう場面は、だいたい、自分の核心を突いてくることが多い。物語世界を客観的に楽しむのではなくて、怖いように一体化してしまって、セリフのほとばしりに現実と同じリアリティを感じてしまう(それはフィクションのリアリティというのとは少し違うかもしれない)。私自身は、お金の不自由とか抑圧的な父とか女性の葛藤とか進路の問題とかを経験したことはないのだけど、それでもこの作品がストレートに響くのは、社会的存在としての男性・女性っていうのは、境界がないようでもやっぱりあるっていうのがあって、無意識のうちでもフィクション、ノンフィクション様々な形で相反するメッセージを浴びているからなのだろうな。
 ビーネの成長の仕方はすごくオトナで、葛藤を超えてこんな風に「自分」と「相手との自分」を構築できるのは一つの理想的モデルな気もする。ゼバスチアンはあまり好きなキャラではないけど(のうてんきなアンドレアスの方が好感が持ててしまった)。『ゼバスチアンへの電話』ではないのだなあ。
 今となっては、ややのすると古風なテーマや展開なのに響くところがあるのは、20年前の状況は劇的に変わってはいなくて、いろんな部分でずっと引きずりながら、全体ではなく個々が変わってきたからだと思う。だからやっぱり今も、個々に対して物語は力を持つのだ。


鈴木 宏枝
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