読書日記(穴)
by 鈴木 宏枝
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(あな)
原題Holes読んだ日2000.5.24
著者Louis Sachar(ルイス・サッカー)訳者幸田敦子画家(N/A)
出版社講談社出版年月日1999.10.25原作出版年1998
感想 めちゃめちゃおもしろかった。訳者が後書きでも書いているように、一つのタペストリーのように、スタンリーとヘクターの今を形作る、時空を越えた物語が縦横に織られている。水を求める渇いたのど、協力や助け合いという言葉では表しきれない、いのちがけの岩山の旅とその間の奇妙な高揚感など、皮膚感覚の強い作品。約束を守れなかったひいひいじいさんのひいひい孫が、ゼローニのひいひい・・・孫を背負って、考えられないほど高い岩山に上っていく場面は感動的。『ほんとうはこんな本が読みたかった!』の横田さんの紹介も、ナイス。
 たまねぎにすくわれ、たまねぎ臭い血のおかげで、トカゲは二人を噛まない。その甘い刺激的な魔法のたまねぎ売りの青年は、人種差別の時代に惨殺され、そして、スタンリーとヘクターは人種を超えて絆を結ぶ。悲しみを見届けた桃は、その甘酸っぱい香で、スタンリー3世の運命を変える。
 サイバーポケットの穴、運命の穴、水の湧き出す穴。物語のおもしろさが、様々な穴にひそんでいる。最高!


 STANLEY YELNATS 上から読んでも下から読んでもおんなじ名前。無実の罪で、穴掘りのグリーン・レイク・キャンプ送りになったスタンリー5世少年には、豚どろぼうの(というか、約束を守るのを忘れてしまった)ひいひいじいさんの、ツイテない運命が引き継がれている。
 
 ツイテないをどんでん返していくスタンリーの、とぼけたたくましさと、ミョーな懐の深さが、感動的な楽天ぶりをかもし出しています。
 タマネギの匂いや足の匂い(^^;もぷんぷんしてきそうです。生タマネギを何百個も食べて、身体にしみていき、生き返るシーンは、(いい意味で)魔法のようですし、そこに至るまでの、ヘクターとスタンリーの姿にもじ〜んとします。
 毒とかげやがらがらへびの描写は、しぶとくふてぶてしい野生という感じ。こんなとかげが、タマネギ臭い血を嫌って、ぞわぞわ体を這いまわっているのも、それを見下ろしている、「そちもワルよのぉ」な女所長もすごいんだけど、妙にコミカルで、ダールに似た毒々しい快感があります。最後にへたりこむところも、打ち砕かれた悪役そのものですね。
 この所長よりこわいというか、リアルな大人の残酷さを感じたのは、”母ちゃん”でした。いいヒトそうに、グループカウンセリングとかもやってるのにヘクターへのあの冷たさ。 『トイレ〜』では、素敵なカウンセラーが出てきましたが、ただのテクニックとしてカウンセリングをやってる人間から、ふともれる素に、ぞっとします。そして、それに傷ついているだろうヘクターの心も。

 穴堀りの肉体労働や、渇きと水のキーワード(呪われた渇き・乾きを水で満たしていく)から、皮膚感覚のある作品でした。スタンリーとヘクターの今を描くための、時間も空間も越えた様々な物語の一つ一つが印象的で、幸田さんはタペストリーという言葉を使っていましたが、その通り、あらゆるエピソードがすばらしく織り込まれています。

 物語をつくるにあたり、なにがしか、作家にひらめいたシーンやアイディアがあるとしたら?

・高架から靴が落ちてきてぼうぜんとしてるデブの男の子。
・とにかく穴を掘っている少年たち。
・たまねぎ畑に埋もれる二人。

 やっぱり、これはスタンリーの物語。たとえば、あなたにキッスのKBのせつなさには、上質の脇役でいてほしいです。
・・・ほんとうにせつないんだけどね。


鈴木 宏枝
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