Gelsominaの本の散歩道(人間の大地)
by Gelsomina

人間の大地(にんげんのだいち)
原題(N/A)読んだ日2005.1.30
著者サン=テグジュペリ(サン=テグジュペリ)訳者山崎庸一郎画家(N/A)
出版社みすず書房出版年月日2000.8.11原作出版年(N/A)
感想
 飛行家サン=テグジュペリのさまざまな冒険的体験から生まれた、詩的考察にもとづく小説。とはいえいわゆる小説からは遠く、その形式を説明するにはアンドレ・ジッドが作者に与えた助言を借りるのがふさわしい。「一種の……そう、花束というか、穀物の束というか、時間や空間を無視して、一飛行家の感覚、心情、知性に訴えたものを各章に雑然と寄せ集めたような作品を。」(訳者あとがきより)
 あるときサハラ砂漠の基地で、サン=テグジュペリはマウル人の奴隷バルクと知り合う。奴隷の身に心を死なせず故郷を思い続けるバルクのために、彼はマウル人と交渉し自由を買い戻してやる。しかし故郷の村にほど近い市場に立ち戻ったバルクにとって、長い不在の末に得た自由は苦いものだった。その自由は、彼が「どれほど世界との繋がりが欠けているか」ということを気づかせるものだったから。「ちょうどそのとき、子どもがひとり通りかかったので、バルクは優しくその頬を撫でてやった。子どもはにこりとした。(中略)その子どもはバルクを目ざめさせた。バルクは、彼のおかげでにこりとしたひとりのひよわそうな子どものために、自分が地上ですこし重みを持ったことに気づいたのだ。」(108p)
 バルクはそこにいた貧しい子どもたちに、いっぱいの贈り物をして無一文になる。「明日、彼はおのれの家族の貧困のなかに立ち戻っていくだろう。彼の老いた腕がおそらくは養いうる以上の生命に責任を持つだろう。しかし彼は、すでにここで、おのれの真の重みをどっしりと持っていたのだ。人間の生活にしたがって生きるにはあまりに軽すぎ、術作を弄して、帯に鉛を縫いこんだ大天使のように、バルクは、あんなにも金糸の上履を必要とした無数の子どもたちによって地上に引き寄せられ、重い足取りで歩みはじめていたのだ。」(110p)
 この生は、絆を持つ他者への責任であり、この生は、繋がりをもつの他の生によって役立ち、重みをもたらされている。その思いは『星の王子さま』へと繋がってゆく。


Gelsomina
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