Gelsominaの本の散歩道(灰色の魂)
by Gelsomina

灰色の魂(はいいろのたましい)
原題(N/A)読んだ日2004.11.7
著者フィリップ・クローデル(フィリップ・クローデル)訳者高橋啓画家(N/A)
出版社みすず書房出版年月日2004.10.22原作出版年2003
感想
 第一次大戦中、フランスの小さな町の川縁で、昼顔とよばれる幼い少女の扼殺体が発見された。少女は父親の居酒屋で働いていた。物語は一見ミステリー仕立てで幕を開ける。しかし語り手の「私」はまず町について、周囲の人々について、押し殺 した暗い調子で語りはじめる。「私」とは一体だれなのか、長く明かさないまま謎は幾重にも重なってゆく。
 その町は前線にきわめて近かった。にもかかわらず、多くの人々は兵役をのがれていた。(おそらく軍需)工場があり、労働者として借り出されていたから。そして前線から町には、毎日のように無惨に傷ついた兵士らが雪崩れこんできた。「私」の語る口調には、罪障感と命拾いの安堵感が入り混じり、後ろめたさに裏打ちされた強い悲哀が漂う。なぜ「私」はこれほどまでに悲しみに満ちているのか。それを知りたい。ページを繰る手ももどかしくなる。そのあいだにも少女殺しの謎解きは、「私」の物語を細い細い糸で縫うようにひっそりとすすんでゆく。どこか遠くの灰色の町の物語。だが彼方から遠雷のように砲弾の音が響いてくるその町は、もしかしたらいま自分が住むこの町か、あるいは聞き知っているどこかの町ではないのかという思いにふと囚われる。


Gelsomina
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