読書日記(希望の国のエクソダス)
by 鈴木 宏枝
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希望の国のエクソダス(きぼうのくにのえくそだす)
原題(N/A)読んだ日2001.9.28
著者村上龍(むらかみりゅう)訳者(N/A)画家(N/A)
出版社文藝春秋出版年月日2000.7.20原作出版年(N/A)
感想 パキスタンとアフガニスタンの国境付近で、カラシニコフを下げながらパシュトゥーンの中で地雷撤去をしている16歳の日本人少年ナマムギの映像が配信されたことで、日本の中学生が集団不登校を起こし、その中でも際立った頭脳集団が、コンピューターシステムと金融操作で、自分たちの思うような、一種の理想的な社会を試行していく物語。2000年に書かれた、近未来の話で、今に重なる部分もあり。
 たまたま少年の一人に接触したジャーナリストの視点から書かれているのだけど、少年たちのやっていることのすごさと、さすがに緻密なリアリティに感嘆する一方で、なんだか虚構であるという思いがつきまとい、それは多分、この語り手のジャーナリストの抱えている「何か違う」の思いとも重なるような気がする。中学生(年を経て彼らは最後には17歳になる)のポンちゃんや中村くんは、国会の証人喚問で「この国には何でもあるけど希望だけはない」とはっきりしたメッセージを伝えているのだが、かといって、彼らがやっていることが希望の実現とか、希望をもてるコミュニティ志向かといえば…静謐で豊かな北海道の共同体は、再びエリートのものになってしまうような危惧も感じる。なんだか、血肉を感じないのである。
 そして必然性を伴って選ばれている北海道と沖縄。そのクレオール性と土着の土地性に、甘えているような印象も受けた(この土地の選択は、すごく意図的なゆえにますます)。
 村上龍の一種の予言かエンターテイメントか。昔々には、龍を読んで難解な記憶しか残らなかったのだけど、なんだ、分かりやすい小説じゃないかと思えたのは、ちょっとうれしかった。


鈴木 宏枝
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